
バングラデシュの労働法について日本語で検索すると、2025年11月の「条例による改正」で情報が止まっていることに気づきます。しかし実際には、その後の2026年4月に国会で法制化され、その過程で条例の内容の一部が変更されています。つまり、日本語で読める解説と、現在バングラデシュで効力を持っている条文との間には、すでにずれが生じています。
この記事は、現地で事業を行っている、あるいは委託先を持つ日本企業の担当者に向けて、この改正で何が確定し、何がまだ確定していないのかを切り分けて整理するものです。改正条文の網羅的な逐条解説ではありません。むしろ、自社の労務体制のどこを点検すべきか、そして条文だけでは判断できない部分を誰に確認すべきかを、判断できる状態にすることを目的としています。
本記事の情報は2026年8月21日時点で確認できた公開情報に基づきます。
この記事の要点
- バングラデシュ労働法(2006年法)の改正は、2025年11月17日の条例(Ordinance)と2026年4月9日の国会可決という二段階で進みました。2025年から2026年にかけての改正箇所は、複数の法律事務所・現地報道の集計で約90か所とされています。
- 条文レベルで確定した主な変更は、労働者の定義の拡大、労働組合の結成要件の固定人数方式への変更、ハラスメント関連の体制整備義務、産前産後休暇の延長、罰則の引き上げです。
- 一方で、条例段階に含まれていた一部の内容は、国会での法制化の過程で修正・削除されたと現地報道が伝えています。特に「管理職・事務職員を労働者の定義に含める」条項の扱いは、日本企業の人事制度に直接関わる論点です。
- 実務の細目を定める労働規則(2015年)は、2026年8月時点で見直しの途上にあります。条文は変わりましたが、現場の運用ルールはまだ整合していません。
- したがって現時点で日本企業に必要なのは、確定した条文への対応と、未確定領域についての現地専門家への確認を、並行して進めることです。
改正は「一度」ではなく「二段階」で行われた
バングラデシュの労働法改正を理解するうえで最初に押さえるべきは、これが一度の立法ではなく、政治体制の移行をまたいだ二段階の手続きだったという点です。
第一段階は、暫定政権下の2025年11月17日です。ジェトロのダッカ発ビジネス短信によると、バングラデシュ政府は11月17日に2006年労働法の改正を公表し、暫定政権が国家運営を行っていたため、法律(act)ではなく命令(ordinance)として扱われました。同記事は、2026年2月の総選挙後に開かれる国会での法制化が期待される、と当時の状況を伝えています。
第二段階は、その国会での法制化です。The Business StandardとDhaka Tribuneは、2026年4月9日に国会が労働法改正法案(Bangladesh Labour (Amendment) Bill, 2026)を発声投票で可決したと報じています。ダッカの法律事務所The Legal Circleは、2025年の条例と2026年の法律によって2006年労働法に約90か所の変更が加えられたと整理しています。

この二段階構造には、実務上の意味があります。条例は暫定政権が発した命令であり、選挙後の国会がそれを追認する形で法律にしました。追認の過程では、内容がそのまま引き継がれるとは限りません。実際に何が引き継がれ、何が変わったのかは、後段で改めて扱います。
なお、この改正が進んだ背景には、国内の政治的要因だけでなく、国際的な要因があります。The Legal Circleの解説は、2019年にILO憲章第26条に基づく申し立てが行われ、バングラデシュ政府が2021年5月に期限付きの改革ロードマップを提出した経緯を挙げ、今回の改正をそのロードマップに対する履行と位置づけています。また同事務所は、EUの企業サステナビリティ・デューデリジェンス指令やドイツ・フランスの同種の法制が、バングラデシュから調達する企業側に義務を課している点を、改正を後押しした商業的な現実として指摘しています。
編集部の視点:この背景は、日本企業にとって二重の意味を持ちます。第一に、改正は一過性ではなく、国際的な監視の下で継続する可能性が高いこと。第二に、欧州のバイヤーを持つ取引先ほど、法令遵守の証跡を求められる圧力が強まることです。自社が直接の雇用主でなくとも、サプライチェーン上の取引先の労務状況を問われる場面は増えると考えられます。
条文で確定した主な変更点
ここからは、条文レベルで確定したと確認できる変更を、日本企業の実務に関係する順に整理します。
労働者の定義が広がった
改正の中で最も構造的な変更は、労働者(worker)の定義の拡大です。The Legal Circleの解説によれば、改正後の定義は職名ではなく職務内容に着目する方式を採り、直接雇用か請負経由かを問わず、技能・非技能・肉体・技術・営業・事務のいずれかの業務に従事し報酬を得る者を対象とします。同事務所は、従来この定義に曖昧さがあったため、特にサービス業で従業員を「オフィサー」「エグゼクティブ」などと呼称することで適用を回避する余地があった、と指摘しています。
また、労働組合に関する章の適用においては、自営業者やデジタル労働プラットフォーム経由で働く者も労働者に含まれることになりました。ジェトロの記事も、条例の段階で日雇い労働者、臨時労働者、デジタルプラットフォームを通じて働く者が労働者に該当するようになったこと、家事使用人が適用対象となり、園芸・養殖・畜産業の従事者も農業労働者に含まれることになったことを伝えています。
この変更が日本企業に持つ意味は、業種によって大きく異なります。工場を運営する製造業では、もともと現場作業者は労働者に該当していたため、影響は限定的です。影響が大きいのは、オフィス系の職種を多く抱える企業、すなわち商社の現地事務所、IT企業のオフショア開発拠点、金融・専門サービス業です。これらの企業では、これまで労働法の適用外と整理していた職種が、適用対象に入る可能性があります。
労働組合の結成要件が比率から人数に変わった
労働組合の結成・登録の要件は、従業員数に対する比率方式から、事業所規模ごとの固定人数方式へと変更されました。ジェトロの記事とThe Legal Circleの解説は、いずれも次の五段階の区分を示しています。
| 事業所の従業員数 | 労働組合の結成に必要な人数 |
|---|---|
| 300人以下 | 20人 |
| 301〜500人 | 40人 |
| 501〜1,500人 | 100人 |
| 1,501〜3,000人 | 300人 |
| 3,001人以上 | 400人 |
この表が示す最も重要な点は、規模の大きい事業所ほど、要件が実質的に大きく緩和されているということです。従業員3,000人の工場を例にとると、従来の比率方式(The Legal Circleは原法30%、2018年改正後20%と整理)では600人分の同意が必要でしたが、改正後は300人で足ります。従業員300人の事業所では20人です。中小規模の事業所ほど、少人数で組合を結成できる状態になりました。
ジェトロの記事は、この点について産業界が改正前から反対していたことを伝え、バングラデシュの大手縫製メーカー幹部が同機関の取材に対し、労務管理が経営上の最大の課題であり、人件費の上昇と労働組合要件の緩和に苦慮している、と述べたことを紹介しています。当事者である企業側の受け止めとして参照できる材料です。
なお、The Legal Circleは、一つの事業所または事業所連合において同時に登録できる労働組合は3つまでとする上限規定が新たに設けられたと解説していますが、この点は編集部が確認した範囲では同事務所以外の情報源で確認できませんでした。
ハラスメントと安全に関する体制整備が義務化された
The Legal Circleの解説によれば、改正法はバングラデシュの労働法として初めて、強制労働、ジェンダーに基づく暴力、セクシュアルハラスメントの定義を条文に置きました。同事務所はこれを、2025年11月に批准されたILO第190号条約(暴力とハラスメント条約)の国内実施と位置づけています。
実務上とりわけ重要なのは、体制の整備義務です。同解説は、暴力・ハラスメント・セクシュアルハラスメントの申し立てを受け付け調査する5人構成の苦情処理委員会を、すべての事業所に設置する義務が新設されたとしています。委員長は女性とし、委員の過半数を女性とする構成です。あわせて、労働者が危険な業務を報復を受けることなく拒否できる権利、および50人以上の事業所における安全委員会の設置についても言及しています。
日本企業の現地法人では、日本本社のハラスメント規程を翻訳して運用しているケースが少なくありません。しかし、規程があることと、法定の構成要件を満たす委員会が設置されていることは別の問題です。委員の人数と男女構成という形式要件は、監査で最初に確認される種類の項目です。
休暇・補償の水準が引き上げられた
労働者に支払う側のコストに直結する変更として、次の点が確認できます。
- 産前産後休暇:112日(16週間)から120日へ延長されました。The Legal Circleの解説と、The Daily Starに寄稿した労働運動側の論者タスリマ・アクター氏の分析は、いずれも112日から120日への延長として一致しています。同氏は、公私両部門で180日への統一を求める提案があったのに対し、実際の引き上げは8日にとどまったと評価しています。
- レイオフ補償:The Legal Circleによれば、補償を受ける資格の要件が継続勤務1年から3か月に短縮され、補償額は期間にかかわらず基本給の50%以上に整理されました。
- 死亡補償:同解説によれば、資格要件が勤続2年から1年に短縮されました。
- 祝祭休暇:11日から13日へ拡大されました。
なお、産前産後休暇について、ジェトロの2025年11月の記事は条例段階では16週間のまま変更がなかったと伝えています。120日への延長は、その後の2026年4月の法律で実現したと理解するのが、各情報源の時系列と整合的です。ただし、120日の内訳(産前・産後の配分、まとめて取得できるかどうか)については情報源によって記述が異なり、公開情報だけでは確定できませんでした。
罰則が引き上げられ、行政による直接是正の仕組みが加わった
The Legal Circleの解説によれば、個別の罰則が定められていない違反に適用される一般規定の罰金額が、従来の5,000BDTから25,000〜50,000BDTの範囲へ引き上げられ、3か月以下の拘禁刑も加わりました。最低賃金の不払い、不当労働行為・反組合的差別については、より高い罰金額と拘禁刑が定められています。同事務所は、労働法上の罰則を「予測可能な事業コスト」として扱ってきた企業は、今後は刑事責任のリスクとして扱う必要があると評しています。
あわせて注目すべきは、労働局長(Director General of Labour)が、労働裁判所の手続きを経ずに不当労働行為の停止を命じ、被害を受けた労働者への補償を命じることができる仕組みが新設された点です。従来は裁判所での争いに至るまで時間がかかっていた事案が、行政手続きで先に動く可能性があります。
紛争解決の新機関と、最低賃金の改定周期
The Legal Circleの解説によれば、退職判事や労使関係の専門家で構成される代替的紛争解決(ADR)機関の設置が新たに規定されました。ただし同事務所は、この機関の規則・手続き・委員構成はまだ正式に定められておらず、根拠規定は存在するが運用の細目は下位規則を待つ状態にある、と明記しています。
最低賃金については、改定の周期が5年から3年に短縮されました。ジェトロの記事はこの変更を伝え、The Business Standardも暫定政権が次回の賃金見直し周期を5年から3年に短縮したと報じています。
編集部の視点:この周期短縮は、縫製業に関わる日本企業にとって、条文上の他のどの変更よりも早くコストに影響する可能性があります。縫製業の最低賃金12,500BDTは2023年12月に発効したものです。5年周期を前提とすれば次回改定は2028年頃でしたが、3年周期であれば検討時期はより早まる計算になります。ただし、新しい賃金委員会が設置されたかどうかは、2026年8月時点の公開情報では確認できませんでした。中期の人件費計画を持つ企業は、この点を定点で監視することをおすすめします。
条例と法律で、内容が変わった部分がある
ここまでは、条文で確定したと確認できる変更を扱いました。しかし、この改正を日本企業の視点で理解するうえで、より注意を要するのは次の点です。条例の内容が、国会での法制化にあたってそのまま引き継がれたわけではありません。
The Business Standardは2026年4月11日付の記事で、4月に可決された改正法が、暫定政権下で導入された一部の条項を後退させたとの専門家・労働団体の懸念を報じています。同記事によれば、管理職・事務職員(officials and employees)を労働者の定義に含めていた条項が削除され、退職金、積立基金その他の勤続に伴う給付から除外される可能性が指摘されています。同記事はまた、労働者をブラックリスト化してはならないとしていた条項が「不公正にブラックリスト化してはならない」という表現に変更されたこと、団体交渉代理人の権限の一部が制限されたこと、積立基金の設立に関する規定がより厳格化されたことを伝えています。
同記事において、暫定政権期の労働改革委員会の委員長を務めたシェド・スルタン・ウディン・アハメド氏は、三者委員会で合意された複数の条項が新しい改正に含まれていないとの認識を示しています。一方、ニット製品の業界団体であるBKMEAは、管理職・事務職員を労働者の定義から外すことを求めており、可決を歓迎する立場を表明したと同記事は伝えています。
この点は、単独の報道に依拠する部分を含むため、断定を避けて扱う必要があります。しかし日本企業にとって重要なのは、報道の細部の正確性よりも、この論点が現在も争われている状態にあるという事実そのものです。
実際、法律事務所側の読み方は必ずしも同じではありません。The Legal Circleは、管理・行政・監督職の適用除外そのものは残っているとしつつ、改正後の原則は「除外」ではなく「適用」であり、労働規則(2015年)における除外対象の識別基準は労働改革委員会自身が曖昧であると認めている、と解説しています。同事務所は、銀行・専門サービス・企業のオフィス環境で上位職を適用対象から外してきた雇用主には実質的なリスクが生じるとし、自社のどの従業員が除外に当たるかについて有資格の法律専門家の助言を得るよう促しています。
編集部の視点:つまり、「自社のバングラデシュ現地法人の課長・係長・事務職員が労働法上の労働者に該当するか」という問いに、公開情報だけで確定的に答えることはできません。これは情報が不足しているからではなく、現地の当事者間でも解釈が定まっていない論点だからです。日本企業が取るべき対応は、社内で結論を出すことではなく、自社の職位・職務内容の一覧を用意したうえで現地の専門家に判断を仰ぐことです。この確認を経ずに退職金や積立基金の引当を据え置くことは、後日の遡及的な負担につながる可能性があります。
制度は変わったが、運用のルールはまだ整っていない
もう一つ、日本企業が誤解しやすい点があります。労働法が改正されたことと、現場の運用ルールが確定したことは、同じではありません。
バングラデシュの労働法制は、上位から順に、労働法(Bangladesh Labour Act, 2006)、労働規則(Bangladesh Labour Rules, 2015)、そして監督機関による実際の運用という階層で構成されています。今回改正されたのは最上位の法律です。

その下位規則である労働規則は、2026年8月時点で見直しの途上にあります。The Business Standardは2026年7月11日、ダッカで開かれた「労働規則2015年の見直しと労働法との整合に関する提言」と題する会合を報じ、労働権の専門家が政府に対し、改正された労働法に合わせて労働規則を包括的に見直すよう求めたと伝えています。同記事によれば、基調報告を行ったソリダリティ・センターのカントリー・プログラム・ディレクターであるAKMナシム氏は、政府による労働規則の見直しが進行中であるとしたうえで、下位規則は労働法と整合し、その実施を制限するのではなく促進するものであるべきだと述べました。
同記事はさらに、見直しが必要な条項として臨時労働者の分類、人員削減時の予告手当、労働者による雇用記録へのアクセス、懲戒調査の期限などが挙げられたこと、2026年改正で新設された権利(危険業務の拒否権、職場での差別・暴力・ハラスメントからの保護、家事労働者やデジタルプラットフォーム労働者への保護の拡大)を実施するための詳細な規則の導入が提言されたことを伝えています。またILOのバングラデシュ事務所長マックス・トゥニョン氏が、労働改革ロードマップの実施に関する対話を翌年3月までに加速するよう促したとしています。
The Legal Circleも、暴力・ハラスメント関連の規定と苦情処理委員会の要件は、まだ制定されていない実施規則に実効性を依存しており、規則が公表されるまでは調査の手続要件、期限、証拠基準、不服申立ての仕組みについて曖昧さが残る、と率直に指摘しています。同事務所はまた、ADR機関は法律上設置されたが実際には構成されておらず、機能するまでは既存の労働裁判所に依拠せざるを得ないとしています。
さらに、適用範囲についても未整備の領域が残っています。同事務所は、輸出加工区(EPZ)を対象とするEPZ労働法(2019年)は今回並行して改正されておらず、EPZ内の労働者は新しい枠組みの保護の外にあると解説しています。EPZに入居している日本企業にとっては、適用される法体系が異なる点を改めて確認する必要があります。
日本企業が自社で確認すべきこと
以上を踏まえ、業種と立場に応じて確認すべき項目を整理します。すべてを一度に行う必要はありませんが、上から順に着手する優先順位で並べています。
すべての現地法人に共通する項目
- 苦情処理委員会の設置状況と構成(人数、委員長および委員の男女構成)が、法定の要件を満たしているか
- 自社の職位・職務内容の一覧を作成し、どの職位が労働法上の労働者に該当するかについて専門家の判断を得たか
- 産前産後休暇の日数と運用が、改正後の水準に更新されているか
- 退職・解雇・レイオフ時の補償計算が、改正後の資格要件と算定方法に沿っているか
- 就業規則・雇用契約書の該当条項を、改正後の条文に照らして点検したか
縫製・アパレルの調達を行う企業(自社工場を持たない場合を含む)
- 取引先工場における労働組合の状況と、結成要件の変更が取引先の労使関係に与えている影響
- 最低賃金の改定周期が短縮されたことを踏まえた、中期の調達コスト見通しの見直し
- 欧州向けにも販売する取引先の場合、バイヤー側から求められるデューデリジェンス要件の変化
オフィス系職種を多く抱える企業(商社、IT、金融・専門サービス)
- 「オフィサー」「エグゼクティブ」等の職名で処遇している従業員の、労働法上の位置づけ
- 積立基金(プロビデント・ファンド)および退職給付の引当が、適用範囲の変更を織り込んでいるか
EPZ・経済特区に入居している企業
- 自社に適用されるのがEPZ労働法か、一般の労働法かの確認と、今回の改正が及ぶ範囲の確認
どこに確認すればよいか
本記事は改正の概要と論点の所在を示すものであり、個別の判断は現地の専門家によるべき領域です。確認先の候補を、目的別に整理します。
法令の解釈・自社への適用可否
現地の法律事務所、または日系企業向けに労務コンサルティングを提供する事業者が第一の窓口です。特に前述の「管理職・事務職員の位置づけ」のように解釈が分かれている論点は、書面での見解を取得しておくと、後日の社内説明や監査対応に使えます。
日本語での一次的な相談
ジェトロのバングラデシュ関連情報ページでは、現地の制度動向に関する短信や調査レポートが公開されており、貿易投資相談やダッカ事務所によるブリーフィングの窓口も案内されています。日本語で状況を把握する起点として利用できます。
同業他社の実務動向
ダッカ日本商工会および日本バングラデシュ商工会議所(JBCCI)は、現地で事業を行う日本企業が加盟する組織です。同種の課題に他社がどう対応しているかは、条文の解釈と同じくらい実務上の参考になります。
法令原文・監督機関
労働雇用省および工場・事業所監督局(DIFE)が所管機関です。法令テキストについては、バングラデシュ経営者連盟(BEF)が労働関連法令の一覧ページで改正を反映した版を掲載しています。ただし同連盟は使用者側の団体であり、掲載資料の位置づけはその前提で理解してください。
編集部の視点:確認を依頼する際は、「労働法改正について教えてほしい」という漠然とした照会ではなく、自社の職位一覧、従業員数、事業所の所在(EPZ内か否か)、業種を添えて、具体的な論点を指定して尋ねる方が、有効な回答を得やすくなります。本記事の前節のチェック項目は、そのまま照会状の骨子として使えるように並べています。
よくある質問
Q. 改正はいつから適用されているのですか。
条例は2025年11月17日に公表され、国会での法制化は2026年4月9日です。ただし、実務の細目を定める労働規則(2015年)は2026年8月時点で見直しの途上にあり、規則の整備を前提とする一部の仕組み(ADR機関の運用など)は、まだ機能していないと解説されています。「法律は施行されているが、運用の細目は未確定」という状態です。
Q. 日本語で改正内容を確認できる資料はありますか。
編集部が2026年8月時点で確認した範囲では、日本語の公的な解説は2025年11月の条例段階のものが中心で、2026年4月の法制化とその際の内容変更を扱ったものは見当たりませんでした。現時点では、英語の一次情報および現地の法律事務所による解説を参照する必要があります。
Q. 自社の管理職は労働法の対象になりますか。
公開情報だけでは確定的に判断できません。条例段階で管理職・事務職員を労働者に含めていた条項が法制化の際に削除されたと現地報道が伝える一方、法律事務所の解説は管理・行政・監督職の除外基準そのものが曖昧であり、原則は適用であると整理しています。職位ごとの判断は、現地の専門家に確認してください。
Q. 従業員数が少なければ、労働組合の問題は関係ありませんか。
むしろ逆の可能性があります。改正後は300人以下の事業所であれば20人で労働組合を結成できるため、小規模な事業所ほど要件のハードルは相対的に下がっています。従業員数の多寡ではなく、労使のコミュニケーション体制が整っているかどうかで判断してください。
Q. EPZ内の工場にも同じ改正が適用されますか。
EPZにはEPZ労働法(2019年)が適用され、今回の改正は並行して行われていないと解説されています。自社に適用される法体系がどちらかを、まず確認してください。
まとめ
バングラデシュの労働法改正は、2025年11月の条例と2026年4月の法制化という二段階で進み、労働者の定義、労働組合の結成要件、ハラスメント関連の体制義務、休暇・補償、罰則の各領域で、条文レベルの変更が確定しました。
同時に、この改正は完了していません。条例から法律への移行過程で内容が変更された部分があり、その一部は日本企業の人事制度に直接関わります。また、実務の細目を定める労働規則は見直しの途上にあり、新設された仕組みの一部はまだ稼働していません。
したがって、現時点で適切な姿勢は、確定した部分への対応を進めながら、未確定の部分については判断を留保し、確認の経路を確保しておくことです。「制度が固まってから対応する」という姿勢は、罰則が引き上げられた環境下ではリスクを伴います。一方で、確定していない解釈を社内で断定することも、同様にリスクを伴います。
次のアクション
- 自社の現地法人・取引先について、本記事の確認項目を用いて現状を棚卸しする
- 職位一覧を添えて、現地の法律専門家に労働者該当性の判断を照会する
- 縫製・アパレル関連の場合は、最低賃金の改定周期短縮を中期のコスト計画に織り込む
- 労働規則の改正動向を、四半期ごとの定点確認項目に加える
- 賃金水準の実態については、バングラデシュの賃金水準と人材マネジメント を参照する
- 採用市場の実情については、バングラデシュでの人材採用は実際どうか を参照する
- 通商条件の変化と国内制度改革の関係については、バングラデシュのLDC卒業とは何か を参照する
- Bangladesh Insightの最新制度情報をメールで受け取る
注意書き
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別案件に対する法律・税務・労務等の助言ではありません。本記事は法律専門家の監修を受けていません。記載内容は2026年8月21日時点で確認できた公開情報に基づいており、その後の法令改正、規則の制定、運用の変更を反映していない可能性があります。実際の判断にあたっては、最新の制度を確認し、現地の専門家へご相談ください。
参考資料・出典
政府・公的機関
- ジェトロ「バングラデシュ労働法改正、労働者の権利保護を強化」
2025年11月28日公表、2026年8月21日参照、日本語 - ジェトロ「バングラデシュ」国・地域別情報
2026年8月21日参照、日本語 - バングラデシュ政府印刷出版局「2006年労働法改正(官報)」
2025年11月17日公表、2026年8月21日参照、ベンガル語(PDF)
法令・制度
- Bangladesh Employers’ Federation「Acts & Policies」
更新日不明、2026年8月21日参照、英語・ベンガル語
専門機関・法律事務所
- The Legal Circle(Nauriin Ahmed)「The Rules Have Changed – Bangladesh’s 2025-2026 Labour Law Reforms And What It Means For Businesses」(Mondaq)
2026年6月11日公表、2026年8月21日参照、英語
報道
- The Business Standard「Labour law amendment to deprive many employees of protections: Experts」
2026年4月11日公表、2026年8月21日参照、英語 - The Business Standard「Labour rules must align with amended law, experts urge government」
2026年7月11日公表、2026年8月21日参照、英語 - Dhaka Tribune「National Parliament passes labour bill; layoff compensation, trade union rights among key reforms」
2026年4月9日公表、2026年8月21日参照、英語 - The Daily Star(Taslima Akhter)「A closer look at Bangladesh’s new labour law: gains and gaps」
公表日確認中、2026年8月21日参照、英語