
「バングラデシュが次の有望市場らしい」と耳にしたものの、何から調べればよいか分からない。そのような日本企業の経営者・事業担当者に向けて、本記事では進出検討の最初に確認すべき10項目を整理します。
2026年のバングラデシュは、制度面で大きな転換点にあります。2月の総選挙で新政権が発足し、同月には日本との経済連携協定(EPA)が署名され、11月には後発開発途上国(LDC)からの卒業が予定されています。一方で経済環境は厳しく、成長率は減速、インフレは高止まり、銀行部門は不良債権を抱えています。「制度は前に進み、マクロ環境は苦しい」という二面性を、まず正確に押さえることが重要です。
本記事は、個別テーマを深掘りする前の「全体地図」です。各項目には確認先となる公的機関へのリンクを付けています。なお、本記事の情報は2026年7月25日時点のものです。
この記事の要点
- 2026年2月12日の総選挙でバングラデシュ民族主義党(BNP)が209議席を獲得し、約1年半の暫定政権期を経て政党政治が復活した。タリク・ラフマン氏が首相に就任している。
- 日本とバングラデシュのEPAは2026年2月6日に署名された。バングラデシュにとって初のEPAだが、発効は両国の国内手続き完了後であり、それまでEPA税率は使えない。
- 2026年11月24日にLDC卒業を予定しており、特恵関税の枠組みが変わる。
- 経済面は楽観できない。世界銀行は2026年4月、2025/2026年度の成長率見通しを3.9%へ下方修正し、インフレ8.5%、不良債権比率30.6%(2025年12月)など複数の課題を指摘した。
- 進出判断は「国の総合評価」ではなく「自社の目的・体制・時間軸との相性」で行うべきであり、本記事の10項目がその確認リストになる。
なぜ今、バングラデシュが検討対象になるのか
理由は主に3つの制度変化です。①総選挙を経た新政権の発足、②日本とのEPA署名、③LDC卒業です。
2024年8月の政変(ハシナ政権の崩壊)以降、同国はムハンマド・ユヌス氏率いる暫定政権の下にありました。この期間、政策の予見可能性が下がり、新規投資を見送る企業が多くありました。ジェトロの2025年度海外進出日系企業実態調査では、投資環境上のリスクとして「不安定な政治・社会情勢」を挙げたバングラデシュ進出日系企業は94.4%に達しています(出典:ジェトロ「バングラデシュ総選挙とBNP新政権に期待される投資環境改善」)。
その状況が2026年2月に区切りを迎え、貿易・投資のルールも新しい段階に入りました。ただし後述するとおり、マクロ経済環境は依然として厳しく、「制度が整えば自動的に事業環境が良くなる」わけではありません。
以下、確認すべき10項目を順に見ていきます。
【項目1】市場規模と人口:約1.7億人をどう読むか
バングラデシュの人口は約1.7億人で、国土は日本の約4割です。若年層の比率が高く、労働力は豊富です。人口、産業構造、貿易額などの基礎数値は、外務省「バングラデシュ基礎データ」とジェトロ「バングラデシュ概況・基本統計」で確認できます。後者はバングラデシュ統計局(BBS)およびバングラデシュ銀行の数値を出所としており、会計年度(7月〜翌年6月)ベースであることに注意してください。
重要なのは、この人口を自社にとってどう読むかです。
- 輸出加工型(現地で生産し第三国へ輸出):人口よりも人件費、関税、物流条件が重要。
- 内需型(現地市場で販売):人口は魅力だが、1人当たりの所得水準は低く、購買力のある層は都市部の中間層以上に限られる。
- 調達型(現地から仕入れる):サプライヤーの品質、納期、価格が焦点。
加えて、貧困率は改善していません。世界銀行は、全国の貧困率が2022年の18.7%から2025年には21.4%へ上昇し、2025年に貧困層が140万人増えたと報告しています(出典:世界銀行「Urgent Reforms Needed to Restore Macro Stability, Sustain Growth, and Create Jobs in Bangladesh」)。「1.7億人の消費市場」をそのまま自社の顧客数として扱うのは適切ではありません。
【項目2】政治情勢:新政権をどう評価するか
2026年2月12日に第13回総選挙が実施され、BNPが300議席中209議席(連合で212議席)を獲得しました。ジャマティ・イスラミ党(JI)は68議席、国民市民党(NCP)は6議席でした。同日実施された「7月憲章」の改革案に関する国民投票も、68.1%の賛成で承認されています(出典:ジェトロ「バングラデシュ総選挙、BNPが3分の2以上の議席獲得、政党政治復活へ」)。
日本政府は、この選挙が信頼できる形で概ね平和裏に実施されたとして歓迎する立場を示しています(出典:外務省「バングラデシュ総選挙について(外務報道官談話)」2026年2月17日)。
新政権の政策方向は、すでに具体化し始めています。2026年5月18日、タリク・ラフマン首相が議長を務める国家経済評議会が第9次5カ年計画(2026/2027〜2030/2031年度)を承認しました。2030年までに1,000万人の新規雇用創出、2034年までに経済規模1兆ドルを目標とし、規制緩和とビジネス環境の改善、投資主導の成長などを柱としています(出典:ジェトロ「政府が2026年度からの5カ年計画を承認、投資主導の成長目指す」)。
外国企業にとって歓迎できる方向性ですが、次の点は区別して考える必要があります。
- 計画・公約と、実際の執行は別である。行政の実務能力、歳入不足、既得権益との調整が課題となる。
- 政変後の社会には、労働運動や治安面で引き続き注視すべき要素がある。
- バングラデシュでは過去、政権交代期に政治的混乱が生じた経緯がある。
治安情勢は変動するため、渡航や駐在を検討する段階では外務省海外安全ホームページ「バングラデシュ 危険・スポット・広域情報」で最新の危険レベルを必ず確認してください。地域によってレベルが異なります。
【項目3】経済環境:成長減速と高インフレという現実
ここは、進出検討で最も見落とされやすい部分です。制度改革の期待とは別に、足元のマクロ環境は厳しい状況にあります。
世界銀行は2026年4月8日に公表した「Bangladesh Development Update」で、2025/2026年度(FY26)の成長率見通しを3.9%へ引き下げました。同報告は、インフレ率が8.5%と高止まりし、低所得層の賃金が物価に追いついていないこと、不良債権比率が2025年12月時点で30.6%に達し、銀行部門の自己資本が全体として規制上の最低水準を下回ったこと、2024/2025年度に税収対GDP比が15年ぶりに7%を割ったことを指摘しています。中東情勢の影響も下振れ要因として挙げられています(出典:世界銀行の同報告に関するプレスリリース)。
一方で、機関によって見通しは大きく異なります。2026/2027年度の実質GDP成長率予測は次のとおりです。
| 発表主体 | 2026/2027年度の成長率予測 | 発表時点 |
|---|---|---|
| バングラデシュ政府(予算目標) | 6.5% | 2026年6月11日 |
| バングラデシュ銀行(中央銀行) | 6.1% | 2026年6月21日 |
| IMF | 4.7% | 2026年4月更新 |
| アジア開発銀行(ADB) | 4.5% | 2026年7月9日 |
出典:ジェトロ「主要機関、バングラデシュの2026/2027年度経済見通しに慎重な見方」
政府・中央銀行の目標値と、国際機関の推計値との間に1.5〜2ポイント程度の差があります。政府側の数値は政策目標を前提としたもの、国際機関の数値は現状の延長線上での推計であるため、社内資料で用いる際はどちらの性質の数値かを明記することをおすすめします。
財政面では、2026年6月11日に2026/2027年度予算案が発表され、歳出は前年度比約19.0%増の9兆3,800億BDT(1BDT=約1.3円換算で約12兆1,940億円)と過去最大規模になりました。ただし歳入は6兆9,500億BDTの見込みで、約2兆4,300億BDTの財政赤字が想定されています(出典:ジェトロ「新年度予算案は過去最大規模に、デジタル経済を推進」)。
日本企業への実務上の意味は次のとおりです。高インフレは現地の人件費と調達コストの上昇圧力になります。歳入不足は税務当局による徴税強化につながりやすく、銀行部門の脆弱性は現地での資金調達や取引先の与信判断に影響します。
【項目4】LDC卒業(2026年11月)と日本とのEPA
LDC(後発開発途上国)とは、国連が認定する特に開発の遅れた国を指します。バングラデシュは1975年から認定されており、国連総会の決議に基づき2026年11月24日に卒業する予定です。
卒業により、これまで享受してきたLDC向け特恵関税(日本向け輸出では所定の条件下で原則無税となる特別特恵関税など)の対象から原則として外れます。主力輸出品である衣料品への影響が特に懸念されてきました。背景の整理はジェトロ「バングラデシュのLDC卒業に係る現状と政策」が参考になります。
この文脈で重要なのが、日本・バングラデシュEPAです。2024年3月の交渉開始決定、2025年12月22日の大筋合意を経て、2026年2月6日に東京で署名されました。バングラデシュにとって初のEPAです(出典:経済産業省「日・バングラデシュ経済連携協定(EPA)」、税関「日・バングラデシュ経済連携協定(EPA)の署名について」)。
内容面では、日本からバングラデシュへの輸出額(2022〜2023年平均で約3,599億円)のうち約83%が将来的に無税となり、鉄鋼や自動車部品などが即時〜18年以内に関税撤廃の対象となります。税関手続き、知的財産、ビジネス環境整備、透明性などのルール分野も規定されました(出典:ジェトロ「日本とバングラデシュがEPAに署名、投資加速を期待する声」)。
ここで実務上、極めて重要な注意点があります。署名は発効ではありません。 EPA税率が使えるのは両国の国内手続き(日本では国会承認)が完了して発効した後です。発効状況は外務省「我が国の経済連携協定(EPA/FTA)等の取組」で確認してください。
- 縫製品などを日本へ輸入している企業:LDC卒業後の関税コストと、EPA発効時期の両方を確認する。日本にはLDC卒業国へ3年間特恵を継続できる制度があり、変化は一定程度緩和されます。
- 日本から製品・部材を輸出したい企業:自社品目の関税撤廃スケジュールを確認する。
【項目5】主要産業と自社業種との相性
バングラデシュ経済の中心は縫製業です。外務省の基礎データによれば、2022年度の輸出額に占める縫製品の割合は85.6%でした。裏を返せば、単一産業への依存が構造的な脆弱性でもあります。
世界銀行も、成長を牽引してきたのは縫製業などの大規模輸出企業に限られ、多くの中小企業は高い規制コスト、不安定なインフラ、資金アクセスの制約に直面していると指摘しています。
| 分野 | 特徴・日本企業との関わり |
|---|---|
| 縫製・アパレル | 最大の産業。調達拠点として実績豊富。賃金・電力コスト上昇が課題 |
| IT・オフショア開発 | 英語人材が比較的豊富。ハイテクパーク庁(BHTPA)が所管する優遇枠組みあり |
| 製造業(輸出加工) | 経済特区・輸出加工区の整備が進む。裾野産業は発展途上 |
| 消費財・内需 | 中間層の拡大に伴い成長。ただし所得水準と流通網の制約は大きい |
| インフラ・建設 | 円借款事業など日本の関与が大きい分野 |
自社が調達・生産・販売のどの形で関わるのかを最初に決めることで、以降の調査項目の優先順位が定まります。
【項目6】人件費と人材:安さだけで判断しない
バングラデシュの人件費はアジアの中でも低い水準にあります。基幹産業である縫製業の法定最低賃金は、2023年12月の改定により月額12,500BDT(1BDT=約1.3円換算で約1万6,000円)です。この改定は現地通貨ベースで56.3%の引き上げでした(出典:ジェトロ「縫製産業工員の最低賃金、月額1万2,500タカに改定」)。
判断にあたっては、次の点に注意してください。
- 法定最低賃金と実際の採用相場は別物です。職種、経験、地域で差があり、管理職、英語人材、IT人材の水準は最低賃金とまったく異なります。
- 賃金は上昇傾向にあります。縫製業の最低賃金は2018年の8,000BDTから2023年に12,500BDTへ引き上げられました。また、バングラデシュでは総選挙の前後に縫製業の最低賃金が改定される傾向があり、2026年2月に総選挙を終えた現在、改定議論が起こる可能性を織り込む必要があります。
- 高インフレ下では実質賃金の目減りが労使関係の緊張につながります。過去には賃金をめぐるストライキで日系工場が一時操業停止に至った例もあります。
人材の質については、若く豊富な労働力という強みがある一方、技能レベルや管理職層の厚みには課題があります。「バングラデシュ人は◯◯だ」という一般化は実務の役に立ちません。詳細は人材・労務の個別記事で扱います。
【項目7】外資規制と進出形態の選択肢
バングラデシュは外国投資に比較的開放的で、多くの業種で100%外資の現地法人設立が可能です。ただし、外国直接投資が一切認められない禁止業種と、政府の特別な許認可を要する規制業種が定められており、特に銀行・金融業と保険業の規制は厳格です。詳細はジェトロ「バングラデシュ 外資に関する規制」で確認できます。
投資の窓口となる政府機関は、投資開発庁(Bangladesh Investment Development Authority:BIDA)です。BIDAは国内外の民間投資の促進と、登録・許認可などの規制サービスを担っており、BIDAの公式サイトおよびオンライン窓口のワンストップサービス(OSS)から手続き情報を確認できます。投資家向けのよくある質問はBIDAのFAQページにまとまっています。
| 形態 | 概要 |
|---|---|
| 駐在員事務所・支店 | 市場調査や連絡業務が中心。設立初期の運転資金として5万ドル相当以上の送金が必要 |
| 現地法人(100%外資) | 多くの業種で可能。本格的な事業活動の基本形 |
| 合弁会社 | 現地知見を得やすい反面、パートナー選びが成否を分ける |
| 経済特区・輸出加工区への入居 | 税制優遇とインフラ面の利点がある |
経済特区は経済特区庁(BEZA)、輸出加工区は輸出加工区庁(BEPZA)が所管します。日本企業にとって特に関係が深いのは、日本とバングラデシュが官民一体で開発し2022年12月に操業を開始した「バングラデシュ経済特区(BSEZ)」です(ナラヤンガンジ県アライハザール地区)。優遇措置の内容はジェトロ「バングラデシュ 外資に関する奨励」、設立手続きと必要書類はジェトロ「外国企業の会社設立手続き・必要書類」が実務的です。
なお、制度上認められていても手続きに想定以上の時間がかかる例は珍しくありません。最終判断の前に、現地の法務・会計専門家への確認をおすすめします。
【項目8】インフラと物流の現実
インフラは、進出後の実務で最も差が出る領域です。制度や計画と現場の実態を分けて理解する必要があります。
- 電力:供給は改善傾向にあるものの、停電や電圧の不安定さは残り、工場では自家発電の備えが一般的です。世界銀行も電力供給の信頼性向上を民間主導の成長の要件として挙げています。
- 交通:ダッカの交通渋滞は深刻で、市内移動に想定の数倍の時間がかかることがあります。商談スケジュールは余裕を持って組む必要があります。
- 港湾・物流:輸出入の大部分はチッタゴン(チョットグラム)港に依存しており、混雑による遅延が課題です。日本の円借款で開発が進むマタバリ港は、大型船が入港できる深海港として物流改善が期待されています。
インフラの実態は立地(ダッカ、チッタゴン、経済特区など)によって大きく異なるため、候補地ごとの確認が欠かせません。
【項目9】外貨送金・税務・資金回収
進出後のトラブルとして頻繁に挙がるのが、お金に関する実務です。
- 外貨送金:外貨管理規制があり、利益の本国送金には所定の手続きが必要です。制度上は認められていても、外貨事情や手続きにより時間を要する場合があります。なお2025年半ばに、より柔軟な為替制度が導入され、タカの安定と外貨準備の回復につながったと世界銀行は評価しています。
- 税務:国税庁に相当する国家歳入庁(National Board of Revenue:NBR)が所管します。税収対GDP比が7%を割る状況にあるため、徴税強化や制度変更が今後も見込まれます。優遇措置を受けるにはBIDAへの登録とNBRへの申請が条件となります。
- 資金回収・与信:不良債権比率が30%を超える金融環境を踏まえ、取引先の信用管理、契約書の整備、支払条件の設計は、日本国内以上に慎重な対応が求められます。
この領域は公開情報だけで実態を把握することが最も難しい分野です。進出済み企業へのヒアリングや、現地に精通した会計士・弁護士への確認を、検討の早い段階から組み込むことをおすすめします。
【項目10】商習慣・宗教・文化が実務に与える影響
バングラデシュは人口の大多数をイスラム教徒が占める国です。宗教や文化は、観光的な知識ではなく実務条件として理解する必要があります。
- ラマダン(断食月):年に約1か月、日中の飲食を断つ期間があり、業務時間、生産性、商談設定に影響します。明けの祝祭(イード)前後は長期休暇となります。
- 休日:週の休日は金曜日(企業により金・土)で、日本と稼働日がずれます。
- 意思決定と階層:組織の階層意識が比較的強く、決定権者を見極めた交渉が重要です。
- 時間感覚・コミュニケーション:期日や品質基準は暗黙の了解に頼らず、明文化して繰り返し確認することが基本です。
これらは優劣ではなく前提の違いです。前提を理解した上で仕組みを設計できるかどうかが、現地運営の成否を左右します。詳細は商習慣の個別記事で解説します。
相談先と情報源の一覧
「誰に相談すればよいか分からない」という段階では、次の窓口が出発点になります。
| 機関 | 役割 |
|---|---|
| ジェトロ バングラデシュ | 投資環境情報、ビジネスニュース、無料の貿易投資相談 |
| 在バングラデシュ日本国大使館 日本企業支援 | 現地での企業支援、公的な照会窓口 |
| 外務省海外安全ホームページ | 危険情報、安全対策基礎データ、緊急時連絡先 |
| BIDA | 投資登録、許認可、優遇措置、ワンストップサービス |
| ダッカ日本商工会 | 進出日系企業のネットワーク(一部情報は会員向け) |
| 世界銀行 バングラデシュ | マクロ経済分析、開発報告書 |
向いている企業・慎重に検討すべき企業
向いている企業の例
- 縫製・雑貨などの調達先を分散したい企業(中国+1、ベトナム+1の候補として)
- 人件費上昇とインフレを織り込んだ上で、中長期の生産拠点を検討できる企業
- 若年人口と将来の内需成長に、5〜10年の時間軸で投資できる企業
- 現地に管理者を置く、または信頼できるパートナーと組む体制を作れる企業
慎重に検討すべき企業の例
- 1〜2年での投資回収を前提とする企業
- 高度な品質・納期管理を、現地体制なしで実現しようとする企業
- 安定したインフラと透明な行政手続きを事業の前提条件とする企業
- 現地の資金調達や取引先与信に不確実性を許容できない企業
- 少人数で複数国を管理しており、バングラデシュに割ける人員がいない企業
重要なのは国の総合評価ではなく、自社の目的・体制・時間軸との相性です。
進出検討の進め方:最初の90日
- 目的の明文化:調達か、生産か、販売か。何年でどの状態を目指すのかを社内で言語化する。
- 基礎情報の収集:本記事の10項目について、ジェトロ、外務省、BIDAの一次情報を確認する。
- 比較軸の設定:ベトナム、インド、インドネシアなどと、同じ軸(人件費、関税、物流、規制、政治リスク)で比較する。
- 専門家・経験者への相談:ジェトロの貿易投資相談、現地専門家、進出済み企業から一次情報を得る。
- 現地視察:候補地、工業団地、パートナー候補を自分の目で確認する。
この順番を守ることで、断片的な情報に振り回されず判断の質を保てます。
よくある質問
Q1. バングラデシュ進出の最大のリスクは何ですか。
進出日系企業が最も多く挙げるのは政治・社会情勢の不安定さで、ジェトロの2025年度調査では94.4%に達しました。2026年2月の新政権発足で改善への期待はありますが、成長減速、高インフレ、銀行部門の不良債権といったマクロ面のリスクも同時に確認する必要があります。
Q2. 政変後の治安は落ち着いていますか。
2026年2月の総選挙は概ね平和裏に実施されたと日本政府も評価しており、政変直後よりは安定に向かっています。ただし危険レベルは地域ごとに設定され、随時変更されます。渡航前に必ず外務省海外安全ホームページで最新情報を確認してください。
Q3. EPAが署名されたので、もう関税優遇は使えますか。
使えません。2026年2月6日に署名されましたが、EPA税率の適用は両国の国内手続きを経て協定が発効した後です。発効前の取引には従来の枠組みが適用されます。最新の発効状況は外務省のEPA一覧で確認してください。
Q4. 人件費はベトナムと比べてどうですか。
一般に、バングラデシュの製造業ワーカーの賃金水準はベトナムより低いとされます。ただし賃金は上昇傾向にあり、生産性、電力コスト、物流、裾野産業の厚みまで含めた総コストでの比較が不可欠です。詳細は国別比較の記事で扱います。
Q5. LDC卒業後も日本向け輸出の関税優遇は続きますか。
日本にはLDC卒業国に対して3年間、特別特恵関税の適用を継続できる制度があります。さらにEPAが発効すれば、それが新たな枠組みとなります。品目ごとの扱いは税関および外務省の情報で確認してください。
まとめ:制度の前進とマクロの厳しさを分けて見る
2026年のバングラデシュは、新政権の発足、日本とのEPA署名、LDC卒業という制度上の転換点を迎えました。同時に、成長減速、高インフレ、銀行部門の脆弱性という厳しいマクロ環境にあります。この二面性を混同せず、それぞれ自社にどう影響するかを見極めることが、進出検討の出発点です。
最初にすべきことは次の3点です。
- 自社の進出目的(調達・生産・販売)と時間軸を明文化する
- 本記事の10項目を、本文中にリンクした公的機関の一次情報で確認する
- 早い段階で、ジェトロや現地専門家など一次情報にアクセスできる相談先を持つ
Bangladesh Insightでは今後、各項目を深掘りする記事を公開していきます。あわせてご活用ください。
注意書き:本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別案件に対する法律・税務・投資等の助言ではありません。制度や統計は変更されるため、実際の判断にあたっては最新の情報を確認し、現地の専門家へご相談ください。
参考資料・出典
政府・公的機関(日本)
- 外務省「バングラデシュ総選挙について(外務報道官談話)」
2026年2月17日発表、2026年7月25日参照、日本語 - 外務省「バングラデシュ基礎データ」
更新日不明、2026年7月25日参照、日本語 - 外務省「我が国の経済連携協定(EPA/FTA)等の取組」
更新日不明、2026年7月25日参照、日本語 - 外務省海外安全ホームページ「バングラデシュ 危険・スポット・広域情報」
随時更新、2026年7月25日参照、日本語 - 経済産業省「日・バングラデシュ経済連携協定(EPA)」
更新日不明、2026年7月25日参照、日本語 - 税関「日・バングラデシュ経済連携協定(EPA)の署名について」
2026年2月6日、2026年7月25日参照、日本語 - 在バングラデシュ日本国大使館「バングラデシュ日本企業支援」
更新日不明、2026年7月25日参照、日本語
ジェトロ(日本貿易振興機構)
- ジェトロ「バングラデシュ総選挙、BNPが3分の2以上の議席獲得、政党政治復活へ」
2026年2月16日、2026年7月25日参照、日本語 - ジェトロ「バングラデシュ総選挙とBNP新政権に期待される投資環境改善」
2026年2月24日(2月27日訂正)、2026年7月25日参照、日本語 - ジェトロ「日本とバングラデシュがEPAに署名、投資加速を期待する声」
2026年2月10日、2026年7月25日参照、日本語 - ジェトロ「政府が2026年度からの5カ年計画を承認、投資主導の成長目指す」
2026年5月25日、2026年7月25日参照、日本語 - ジェトロ「新年度予算案は過去最大規模に、デジタル経済を推進」
2026年6月、対象年度2026/2027年度、2026年7月25日参照、日本語 - ジェトロ「主要機関、バングラデシュの2026/2027年度経済見通しに慎重な見方」
2026年7月、2026年7月25日参照、日本語 - ジェトロ「縫製産業工員の最低賃金、月額1万2,500タカに改定」
2023年12月、2026年7月25日参照、日本語 - ジェトロ「国連総会、バングラデシュのLDC卒業を決議」
2021年12月6日、2026年7月25日参照、日本語 - ジェトロ「バングラデシュのLDC卒業に係る現状と政策」
2024年4月、2026年7月25日参照、日本語 - ジェトロ「バングラデシュ 概況・基本統計」
随時更新、2026年7月25日参照、日本語 - ジェトロ「バングラデシュ 外資に関する規制」
随時更新、2026年7月25日参照、日本語 - ジェトロ「バングラデシュ 外資に関する奨励」
2025年9月25日更新、2026年7月25日参照、日本語 - ジェトロ「バングラデシュ 外国企業の会社設立手続き・必要書類」
随時更新、2026年7月25日参照、日本語
国際機関
- 世界銀行「Urgent Reforms Needed to Restore Macro Stability, Sustain Growth, and Create Jobs in Bangladesh」(Bangladesh Development Update 2026年4月版のプレスリリース)
2026年4月8日公表、対象年度FY26、2026年7月25日参照、英語 - 世界銀行「Bangladesh(国別ページ)」
2026年7月更新、2026年7月25日参照、英語
バングラデシュ政府機関
- Bangladesh Investment Development Authority(BIDA)公式サイト
更新日不明、2026年7月25日参照、英語 - BIDA「FAQ(投資家向けよくある質問)」
更新日不明、2026年7月25日参照、英語
業界団体
- ダッカ日本商工会
更新日不明、2026年7月25日参照、日本語(一部会員限定)